🌍 第1章:須弥山の概要と仏教における役割
須弥山(しゅみせん、サンスクリット語: Meru)は、古代インドの思想、特に仏教やヒンドゥー教の世界観において、宇宙(世界)の中心にそびえ立つとされる巨大な聖なる山で、その漢訳名が「妙高山」です。
🔹 宇宙の中心軸
仏教の宇宙論(須弥山宇宙観)では、この須弥山が世界の中心、いわば「宇宙の中心軸」として位置づけられています。私たちはこの山の周縁に存在する「四大洲(しだいしゅう)」の一つ、南瞻部洲(なんせんぶしゅう)という大陸に住んでいるとされます。
🔹 壮大なスケール
経典によってその数値は異なりますが、須弥山は非常に巨大なスケールで描かれます。
- 高さ: 水面から約8万由旬(ゆじゅん。古代インドの距離の単位。一説には約100万kmに相当)
- 素材: 七宝(金、銀、瑠璃、玻璃、硨磲、珊瑚、瑪瑙)から成るとされ、光り輝く荘厳な姿を持つとされます。
須弥山の山頂には、天界の一つである忉利天(とうりてん)があり、そこには仏教の守護神である帝釈天(たいしゃくてん)が住むとされています。
🏞️ 第2章:須弥山を取り巻く構造と世界観
須弥山宇宙観は、須弥山を中心とした非常に階層的な構造を持っています。この構造は、私たち衆生(しゅじょう)が輪廻転生する「三界(さんがい)」とも密接に関連しています。
🔹 須弥山の基本的な構造
須弥山は水面(または大海)からそびえ立ち、その周囲には七金山(しちこんせん)と呼ばれる7つの同心円状の山脈と、七香海(しちこうかい)と呼ばれる7つの清らかな海が交互に取り囲んでいます。
最も外側にあるのが鹹海(かんかい)という塩水の大海で、その中に私たちが住む大陸(四大洲)が浮かんでいます。
| 構造 | 説明 |
| 頂上 | 忉利天(とうりてん):帝釈天の住処。空居天(くうごてん)の一つ。 |
| 中腹 | 四天王天(してんのうてん):持国天、増長天、広目天、多聞天(毘沙門天)が住む。 |
| 地上 | 四大洲(しだいしゅう):人間が住む大陸。私たちの世界は南の南瞻部洲(なんせんぶしゅう)。 |
🔹 衆生の住む世界(六道)
この須弥山を中心とした世界は、六道(ろくどう)と呼ばれる衆生が輪廻する6つの世界(天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道)から成り立っています。
上位の天道は須弥山の上に、人間道や地獄道は山の周縁や地下に配置されています。
🙏 第3章:仏教における須弥山の意味
現代において、須弥山は科学的な意味での地理上の山として捉えられることはありません。これは、仏教の教えや修行の道のりを象徴的に示す重要な概念として理解されています。
🔹 修行と到達の象徴
須弥山は、その高さや光り輝く姿から、悟り(ニルヴァーナ)の境地や仏の浄土を象徴しています。衆生が輪廻の苦しみを離れ、煩悩を乗り越えて修行に励み、最終的に到達すべき理想の境地のメタファー(比喩)と見なされます。
🔹 禅宗と須弥壇
日本の仏教寺院では、仏像を安置する台座を須弥壇(しゅみだん)と呼びます。これは、仏像を世界の中心である須弥山の頂上に位置づけるという、荘厳な世界観を表現したものです。寺院の空間そのものが、仏教宇宙を象徴しているのです。
🔹 日本の信仰と須弥山
「蓬莱山(ほうらいさん)」など、日本古来の理想郷や仙人の住む山に関する信仰や芸術表現にも、須弥山の世界観が影響を与えていると考えられています。
